松徳硝子の「e-glass」

giftearthの1万円セットで、がいあプロジェクトが提供する製品「e-glass」。その製造元は、1922年創立という歴史あるガラス製造会社・松徳硝子株式会社である。創立当時は電球の球を主力製品としていたという。戦前、電球は職人による吹きガラスだったのだ。電球を吹いて作っていたとは今では信じがたいが、目下、松徳硝子の製品の中でも大人気の「うすはり」シリーズを見れば、薄い電球の球を人が一つずつ吹いて作っていたということが納得されるだろう。「うすはり」のグラスの厚さは1ミリ以下、シンプルなタンブラー型のグラスが、大小5つ、入れ子式に木箱に収まった「うすはり・酒道具」など、ストイックな姿に潔い美しさが備わっている。そんな姿が注目され、今では国内を飛び超えて、海外からもひっぱりだこだ。ベルリン在住のミニマルテクノのカリスマDJも惚れ込んで、自身のデザイン・ブランドとの提携を希望する。
「でもね、今年はやはり『e-glass』を注目してもらいたいのです」と話すのは3代目社長の村松邦男さん。「このところ環境という言葉は、テレビの CMでもはずせないキーワードになってきているでしょ。『e-glass』もね、もっと広まっていいはず」きさくに内輪話を聞かせてくれる村松さん。話しているうちに、どうやら、この方の柔軟な考え方や多彩なネットワークが、製品づくりに生かされているのではと思われてくる……。
ストーリーを持った製品づくり
そもそも「e-glass」を始めたきっかけは、金沢で電気工事を行なう株式会社サワヤが、不要となった蛍光管の行き場について「ただ捨ててしまうだけでいいのだろうか」と疑問に感じたことが始まりだった。廃棄蛍光管はその大半が埋められてきた。有害な水銀を含んでおり、それが収集の際に破砕して飛び散ったり、埋められた後も深刻な汚染を招く。その数、およそ年間4億本! 日本は欧米などに比べて蛍光管使用が膨大なのに、リサイクルシステムは講じられてこなかったのだ。サワヤは、そんな廃棄蛍光管の水銀除去の研究に、2000年頃から取り組んできた。完全水銀除去に成功してからは、ガラス工房を開設してガラス製品を売り出し、ガラス材料・カレットの販売も開始。しかし、その行き先が見つからない。そんななか工房の職人が村松さんと親交があり、この話が伝わっていった。一方、松徳硝子はイベントなどで、「玻璃供養」(玻璃とはガラスの古い呼び名)と称して、不要ガラスを集めてリサイクルに挑戦したり、再生ガラスを指向する下地があった。ガラスという素材は、そこに用いられる組成が合致していれば、再生しやすい素材である。それなのに実態は、使い手の都合ごとに異なる組成が無制御に混在している。
ところが蛍光管は、水銀という厄介者を含有する一方、国内市場の大半をカバーする大手2社が同じ組成を採用していたのだ。なんと! 蛍光管は水銀問題さえ解決すれば再生しやすい、またとないガラス素材なのだった。サワヤで無害化されたカレットを、松徳硝子でも原料の段階と、でき上がった製品とで、毒性のダブルチャックを実施。そこでも、なんら問題は見られなかった。製品化、いよいよ、である。デザインは、かねてから村松さんが気に入っていたガラス工芸作家・毛利夏絵さん考案のものを想定していた。それは、これまでも機会あるごとに村松さんがオファーしたが、断られてきたという経緯があった。心機一転、毛利さんにこの素材を見せると、「素敵、これならいいわ」と快諾。「e-glass」、徐々に形づくられてきたのである。
少しグリーンがかった色彩で、ところどころに気泡が混じる廃棄蛍光管ガラス。ガラス面にしずくがついたようなデザインに仕立てると、冷たいはずのガラスが、不思議とぬくもりをもつようだ。ゆらゆらと形を変容していきそうな印象もある。「e-glass」は05年の3月に発表され、その年の暮れの第1回伝統的工芸品チャレンジ大賞を受賞。翌年には、エコマーク取得商品に認定。これはグラスでは初めてのもので、その後も唯一である。「キザかもしれませんが、うちの商品は、どれも裏にストーリーのあるものばかりなのです」。村松さん、小さく照れ笑いした。
2つのエコの合流点
工場内を案内していただいた。中央に設置されたガラスを溶かす窯は、24時間365日、常に1300〜1350℃で保たれ、工場中に熱気が立ちこめている。窯の数カ所にガラスの材料が入った堝(つぼ)があり、そこからガラス吹き職人が小さなガラスの「玉」を取り出し、そこにさらに必要量のガラスを巻いてから型の中で吹いて成形する。ガラスは、その後ゆっくりと熱をとる「徐冷」、余分な部分を切断する「火切り」、摺(す)って表面を滑らかにする「摺り」、口の部分に火をあて切り口をさらに滑らかにする「口焼き」という工程を経て、最終検品を済ませて完成へと至る。吹きの段階では、一つの堝に4人で1チームを組んで、一定の間隔をとりながら流れるように作業を行なっている。松徳硝子の職人は、墨田マイスターや東京マイスターに認定された熟練技術者が活躍する一方、若手も生き生きと作業に励んでいる。

取材に伺ったのは、今にも雪が降り出しそうな寒々とした冬の日。「今うちはサマータイムならぬウィンタータイム。就業時間を延長して稼働しているところです。その分、夏期には就業を短めにします」と村松さん。窯の周囲での作業は、冬場は比較的楽だが、夏にはクーラーをフル回転させても追いつかない。「より快適に、安全に働いてもらいたいということですが、正直、クーラー代も膨大。経費削減の上でもと、思いついたのがウィンタータイム。でも私はね、自分ではエコロジーの意識は薄いんですよ。家でも水を流しっ放しにしたり、電気をつけたままだったりで、注意してくるのは子どもたち……」しかし、それが企業のあり方とすれば、少しでも敏感でありたいという。
例えば松徳硝子では、06年から一般製品に使用するクリスタルガラスの組成を、鉛を含まないバリウムクリスタルに転換を図った。鉛クリスタルは完成した製品を使用する分には心配ないが、作成途中、「摺り」の段階で微細な粉となって水と一緒に排水される。「今は基準以下ですが、今後を見据えたら改良していきたい。でも排水浄化の設備を設けると軽く5000万円を下らない投資です。じゃあ、鉛を含まないガラスならいいじゃないか、となったのです」ところが、バリウムクリスタルは溶かすときの温度管理が非常に難しい。試行錯誤のうえ、導入までに2年を費やしたという。「あれこれ思いつくのは私だけど、それを実際に形にしていくのは、すべて職人たちです。『人のやってないことをやってみよう』と、負けん気と粘り強さで解決してくれます」環境への目配りを行ないながら、その方策を経済的側面からもアプローチする。エコロジーとエコノミー、2つのエコのバランスを図りながらの新たな企てだ。新製品を生み出すアイデア、製造業としてのこれからの姿、働く環境の整備、それらはどれひとつとっても容易なことではないだろう。しかし松徳硝子では、そんな困難こそを原動力にしているかのようだ。

「まだまだ、これからたくさん仕掛けていきたいですね」今年、その初っ端にあるのは、「e-glass」の展開に他ならない。ユニークな戦略を温めて、どんな展開を見せてくれるのか。その第一歩として挑んだのが、年初め早々に開かれたパリでのデザイン見本市、メゾン・エ・オブジェへの出品だ。ジェトロを通じて展示されたブースでは、「うすはり」も「e-glass」も大好評。フランスはもとより、スペイン、アメリカからも引き合いがあったという。今後の快進撃を勢いづける手応え、大である。