2010年06月30日 みゆきポワチャ , SWEDENと子育てと
福祉国家の中の出産と子育て

1996年、筆者はスウェーデン南西部にあるヨーテボリ大学に、日本語教師アシスタントとして赴任した。たまたま目にしたジャパン・タイムズ紙の求人広告で見つけ、応募したのがきっかけだ。
スウェーデン人の伴侶を得て後、三人の子どもが次々と生まれ、現在は9歳・6歳・1歳になった子どもたちとともに、ヨテボリの東、内陸に60kmほどの中都市ボロース(Borås)に住んでいる。
スウェーデンに住むようになってかれこれ15年ほどたつが、国籍は日本のまま。しかし「人種や国籍にかかわらず、住民は等しく同じ権利を得られるべき」という平等理念の徹底したこの国で、思う存分福祉の恩恵を受けてきた。
夫と出会ってスウェーデンに住むことを決めた後、外国人のためのスウェーデン語教室へ行って基本的な会話を学び、その後は大学、さらに大学院修士課程まで進んだ。学費は全て無料、しかも政府から奨学金をもらい、学生ローンを借りて生活しながらである。
大学院の合格通知が届いた時、ほぼ同時に第一子の妊娠が判明した。大きな腹を抱えて大学に通い、修士論文の準備をしている最中に子どもが生まれてきた。出産費用は全て無料。赤ん坊の服やおむつ、母親が病院内で着る寝巻き、タオルやナプキンなども病院に備えられていた。「陣痛が始まったら、病院にスリッパだけ持ってきてください」と言われていたが、文字通りスリッパ以外の必需品が全てそろっていて自由に使えた。
私事だが、最初の子は出産時になかなか頭が出てこずに、止むなく会陰切開をしてもらい、3番目の子は帝王切開だった。これらの手術費用も一切が無料。出産に関して財布を出したのは、夫や上の子どもが病院に来ていっしょにランチを食べた時の、夫と子どもの食事代だけだ。
子どもが生まれてからも大学院へ通い続けた。夫が子どもの面倒を見られない時には赤ん坊もいっしょに連れて行き、授乳しながら講義やセミナーに出席していた。日本で何年も前に、「子連れ出勤の是非」が大きな論議になったことがあったが(いわゆる『アグネス論争』)、専業主婦がほとんど存在せず、共に働く母親と父親が平等に育児を担うスウェーデンでは、職場に赤ん坊を連れて行ったりすることはそれほど珍しくはない。幼稚園などの就学前教育に預けるのはたいてい1歳以降なので、1歳未満の子どもは職場に限らずどこへでも連れて行く。
その後わが家では第二子、第三子が生まれ、夫と交代で育児休暇を取った。休暇中は働いていた時の給与の最大約80%を国が保証してくれる。ミルクやパン、チーズなどの基本的な食料は高くないから、贅沢をしなければ十分に従来通りの生活ができる。
先ほど「人種や国籍にかかわらず、住民は平等に福祉の恩恵を受けることができる」と書いたが、この国では属す階級にも、所有する財産にも、性別や個人的な性向、性癖に対しても何らの差別をこうむることなく、個々の成員に対する経済的な基盤がしっかりと保証されている。失業保険をはじめとする各種の保証、生活を支えるセーフティ・ネットがきめ細かく配備され、子どもを産み、育てていくことに何の不安のない国だ。
「セーブ・ザ・チルドレン」が毎年発表している「母親指標(Mother's Index)ランキング」によると、世界の約160カ国中で子育てがしやすく、母親になるのに最も適した国のトップは、2003年以来7年連続でスウェーデンだ。日本は、2009年は34位、今年は32位。
日本の内閣府の調査でも、「自国は子供を産み育てやすい国か」という質問に対し、『そう思う』と答えた人の割合がスウェーデンでは98%に達した。一方、日本では48%と半数に満たない。